役員借入金を返済するときの流れ|会社から個人へお金を戻す実務

資金繰り・融資

「創業時にお金が足りず、自分の貯金を会社に入れた」「経費を個人カードで立て替えたままになっている」

このように、会社が社長から借りているお金は、会計上「役員借入金」として処理されることがあります。

ただし、個人カードで立て替えた経費は、内容によって「未払金」「立替金」「役員借入金」など処理が分かれるため、まずは帳簿上の残高と内訳を確認することが大切です。

会社に余裕ができたとき、このお金を自分に戻したいと考えるのは自然です。

結論からいうと、実際に会社が社長から借りていた元本を返すだけであれば、返済そのものが役員報酬や配当になるわけではありません。

一方で、記録が曖昧なまま現金を引き出すと、税務調査や融資相談の場面で説明しにくくなります。

この記事の立場

役員借入金を返済するときは、まず資金繰り表で返済可能額を確認し、会社口座から社長個人口座へ振り込んで証拠を残すのが基本です。

税務判断、利息の扱い、融資への影響は個別事情で変わるため、最終判断は顧問税理士や金融機関へ確認してください。

資金繰りへの影響も確認するなら、ひとり社長が毎月残しておきたい資金はいくらで具体的な確認ポイントを整理しています。

役員借入金を返済する前に確認すること

役員借入金は、会社から見ると社長個人に対する借入金です。

会計上は負債ですが、返済すると会社の現預金も同時に減るため、資金繰りへの影響を先に確認する必要があります。

確認項目 チェックのポイント
返済可能額 返済後も、少なくとも数か月分の固定費や税金・社会保険料の支払いに支障がないか確認します。
残高の根拠 総勘定元帳、試算表、通帳、立替経費の明細を突き合わせ、返済してよい元本額を確認します。
融資契約・金融機関への説明 返済後の現預金残高や財務バランスが、既存借入や今後の融資相談に悪影響を与えないか確認します。
他の支払いの優先度 仕入先、税金、社会保険料、借入返済、給与などを滞らせてまで社長返済を優先していないか確認します。

「役員借入金の返済=自己資本が減る」と単純にいうのは正確ではありません。

会計上は、返済により現預金という資産と、役員借入金という負債が同時に減ります。

ただし、金融機関が社長からの長期的な支援資金として見ていた場合、返済によって資金余力や支援姿勢の見え方が変わることがあります。

ひとり社長が実務で確認すること

まずは向こう3か月から6か月の資金繰り予測を作りましょう。

現預金残高から、税金、社会保険料、借入返済、外注費、家賃、サブスク費用などを差し引き、返済しても支障がない金額を決めます。

証拠を残す返済方法と会計処理

会社から個人への返済実務を整理する様子、帳簿と計算機が置かれたデスク周りのイラスト

役員借入金を返済するときに避けたいのは、社長が会社口座から現金を引き出し、あとから理由を説明できなくなることです。

現金引き出しだけでは、役員借入金の返済なのか、役員報酬なのか、私的流用なのかが分かりにくくなります。

実務では、会社の銀行口座から社長個人の銀行口座へ振り込み、通帳やインターネットバンキングの履歴を残す形が管理しやすいです。

摘要欄には「役員借入金返済」「役員立替金精算」など、後から見て分かる内容を入れておきましょう。

仕訳例:役員借入金10万円を普通預金から返済した場合

(借方)役員借入金 100,000円 / (貸方)普通預金 100,000円

返済前には、役員借入金の元になった入金や立替経費の明細も確認してください。

実際には役員報酬の未払、個人利用分、経費にならない支出が混ざっている場合、単純に役員借入金として返済できないことがあります。

保存しておきたい資料

  • 総勘定元帳の役員借入金勘定
  • 社長から会社へ入金したときの通帳・振込履歴
  • 個人カードや個人口座で立て替えた経費の領収書・請求書
  • 会社から社長へ返済したときの振込明細
  • 多額の場合の返済方針メモ、株主決定書、議事録など

取締役と会社の取引は、会社法上の利益相反取引に当たるかが問題になる場合があります。

一人会社でも、後日の説明資料として契約書や返済方針の記録を残しておくと安全です。

取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会または株主決定書など、会社の形に合った手続きは司法書士や税理士へ確認してください。

融資への影響をどう考えるか

役員借入金の返済は、会社の現預金を減らす行為です。

今後、日本政策金融公庫や金融機関へ融資を申し込む予定があるなら、返済前に相談しておく方が安全です。

日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、2026年6月時点の公式ページで、創業者や事業開始後おおむね7年以内の方を対象とし、資金使途を設備資金・運転資金と案内しています。

融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内で、いずれも据置期間は5年以内です。

ただし、審査の結果、希望に沿えない場合があることも明記されています。

注意したいポイント

新しく借りる資金で役員借入金を一括返済できるかは、資金使途として認められるかどうかの問題です。

前事業に係る債務返済に使える再チャレンジ向けの取扱いもありますが、通常の役員借入金返済にそのまま当てはまるとは限りません。

申込前に、公庫や金融機関へ「役員借入金の返済に使える資金か」を明確に確認してください。

金融庁は、中小企業等への金融円滑化に関する情報を公表しており、金融機関に対して円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべきという姿勢を示しています。

資金繰りが苦しい場合は、社長返済を急ぐより、既存借入の条件変更や追加資金の相談を優先した方がよい場面もあります。

税務上の注意点:元本返済と利息を分けて考える

役員借入金の元本を返済するだけなら、社長にとっては貸したお金が戻る取引です。

そのため、実際の借入元本の返済であることを説明できれば、通常は役員報酬や配当として扱う話ではありません。

注意が必要なのは、利息を付けて返済する場合です。

国税庁は、雑所得の例として「非営業用貸金の利子」を挙げています。

社長が会社へ貸したお金に利息を付ける場合、社長個人側で雑所得などとして申告が必要になる可能性があります。

論点 確認すること
元本返済 実際に会社が借りた元本の返済か。帳簿残高と返済額が一致しているか。
利息の有無 無利息で運用していたのか、利息を設定していたのか。契約書や過去処理と矛盾しないか。
社長個人の申告 利息を受け取る場合、雑所得などとして確定申告が必要か確認する。
源泉徴収 預貯金・公社債の利子と同じ20.315%源泉分離課税とは限らない。社債、非居住者、金融類似商品などに該当しないか税理士へ確認する。
利率の妥当性 利率が不自然に高い場合、会社側の損金性や役員への経済的利益として問題にならないか確認する。

ひとり社長が実務で確認すること

もともと無利息で処理していた役員借入金なら、元本のみを少しずつ返済する方が実務はシンプルです。

利息を付ける場合は、利率、契約書、会社側の支払利息処理、社長個人側の申告、源泉徴収の要否を税理士へ確認してから実行しましょう。

資金繰りへの影響も次に確認するなら、会社のお金を見える化する簡単な資金繰り表の作り方で具体的な確認ポイントを整理しています。

役員借入金を返済するためのチェックリスト

役員借入金の返済は、社長個人にとっては「貸したお金が戻る」取引です。

しかし会社にとっては、現預金が外に出る取引でもあります。

返済実行チェックリスト

  • 現在の役員借入金残高を総勘定元帳で確認した。
  • 立替経費、未払金、役員報酬、個人利用分が混ざっていないか確認した。
  • 向こう3か月から6か月の資金繰りに支障がない返済額を決めた。
  • 既存融資の契約書や金融機関への説明に問題がないか確認した。
  • 現金手渡しではなく、会社口座から社長個人口座へ振り込む準備をした。
  • 摘要欄に「役員借入金返済」などの内容を残した。
  • 返済後、会計ソフトで役員借入金を減少させる仕訳を入力した。
  • 多額の返済や利息付き返済の場合、契約書・議事録・税務処理を専門家に確認した。

返済額やタイミングに迷う場合は、自己判断で引き出さず、顧問税理士や金融機関へ相談してください。

正しい記録と無理のない資金繰り計画を残すことが、公私混同を疑われないための一番の防御になります。

参考情報

・日本政策金融公庫:新規開業・スタートアップ支援資金

・日本政策金融公庫:保証人に依存しない融資

・金融庁:中小企業等に対する金融円滑化対策について

・国税庁:雑所得

・国税庁:利息を受け取ったとき(利子所得)

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